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【読書感想文】「家守綺譚」梨木香歩著

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【読書感想文】「家守綺譚」梨木香歩著



四季折々の草花が咲き乱れる庭つきの二階屋を、早世したはずの友人がおとない、言う。

サルスベリのやつが、おまえに懸想をしていると。

そんな不思議な雰囲気に満ちた出だしから始まる物語が、この家守綺譚だ。

さて、あらすじを少しご紹介。

あらすじ

物語の主人公、物書きをして生計をたてている綿貫征四郎は、学生時代に湖でボートを漕いでいる際に行方不明になった親友・高堂の実家に「家守」として住まうことになる。
そんな中、ある雨の晩に、その家の床の間の掛け軸から高堂がボートを漕いで此方へとやってくるのを目撃し、思わず主人公は声をかける。
どうした高堂、逝ってしまったのではなかったか。
死んだはずの友人と交わすにしては、何ともとぼけたやりとりなのだが、物語はそんな調子で進んでいく。
日常と非日常、此方と彼方、交じり合いうつろうものの中で、河童に出会い、鬼に挨拶され、狐狸に化かされる、不思議な主人公の日々がつづられる。

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「それは、ついこのあいだ、ほんの百年すこし前の物語」という帯の紹介文にこころひかれて読むにいたりましたが、時代設定はおそらく明治頃。
一編が数ページほどの内容の短編集で、身近な自然の精や狐狸妖怪、亡友などが登場し、和製ファンタジーのような趣の作品。
私の一等お気に入りは最後の葡萄のエピソードです。
主人公の言い放つ台詞の小気味よさが秀逸で、そして、締めくくりの余韻が心地いい。

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また、とりわけ印象的だったのは、幻と現との境目をふらふらしているような主人公の立ち位置。
「お前は人の世を放擲したのだ」そう言う主人公に、「お前は人の世の行く末を信じられるのか」と高堂は返す。
速度をあげて変わりゆく世の中と、自身の精神のありようとの間に、いささかの齟齬を感じている主人公は返答に窮し、追いつめられた気分にかられる。
あちら側へ行ってしまった高堂と、あちら側に心惹かれながらも、そこの住人にはなれない主人公との決定的な差異が、どこか切ない。

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全編通して感じるのは、理解できない事象や怪異もそういうものだと受け入れるやわらかい姿勢だ。
理にかなったものや、すべて説明のつくことがらだけなら簡単だが、なんともそっけないもの。
ゆったりとした雰囲気ややさしい話に心落ち着く。

いずれそのままひっそりと消えていくのであろう、様々な現象、俗信、情景、風物……。
失われゆくものものは、ただ、ただうつくしい。
そうした静かに移ろいゆく物事に、限りない親しみと寂寥と、わずかな憐憫の情を感じずにはいられない。

艶やかに光る葡萄の誘惑。
優雅で清澄な異界の情景。
まぼろしのような彼方の世界との邂逅に、胸がつまるような、切なく、こころよい懐かしさを覚えるに違いない。

家守綺譚 (新潮文庫)
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