ガッパー編集部

【読書感想文】化学のすすめ

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【読書感想文】化学のすすめ



科学を勉強する醍醐味の一つは、「えっ?そんなに簡単なしくみだったの?」ということに気づき、世の中に対するおそれやためらいが減っていくことにあると思います。それはまるで、初めて自転車に乗れた子供や、初めて恋人が出来た若者のように、人生の見え方が違って見えて、大げさに言えば今までの自分の人生はなんだったんだ!という、生まれ変わったような気持ちになれるのです。そんな感動と目からうろこのカルチャーショックを味わえる本が、W・グラハム・リチャーズ著、「化学のすすめ」です。紀伊国屋書店から1991年に発行されています。

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例えば、今すぐ水素を1グラム用意してくれ、といわれたらどうしますか?いきなりこんなことを言われてもどうしたらいいかわからないかもしれませんが、これは化学のアボガドロ数の考え方で解決できます。水素分子単体は、水の原子量の1/18の軽さなので、水18グラムで1mol(molとは、分子が6×10の23乗個集まった単位です。)なのに対し、水素は1グラムで1molなのです。これは、髪の毛が100本集まって1グラムだとして、針金が100本集まると100グラムになるような感じでしょう。さらに、水の化学式はH2Oですよね。つまりHが2、Oが1の比率です。そしてHとOの原子量を見てみると、Hが1、Oは16です。つまり、原子量1の水素が2つ、原子量16の酸素がひとつですので、1×2+16×1=18です。これを逆に考えると、18グラムの水分子のなかには、16グラムの酸素分子と2グラムの水素分子が含まれていることになります。これからあなたが、1グラムの水素を用意してくれといわれたら、9グラムの水を計って、差し出せばよいということになりますね。
私の好物のレーズンパンに当てはめると、20グラムのレーズンが入り、160グラムのパンで構成された、180グラムのレーズンパンがあったとして、同じ180グラムをレーズンだけで構成したらものすごくたくさんのレーズンが必要になりますし、(水素と酸素の原子量の違い)もしこのレーズンパンから200グラムのレーズンを取り出したければ、1800グラムのレーズンパンを用意すればいいということになります。

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次に、熱と分子の結合の関係です。分子同士はひきつけあっているのですが、その力よりも分子同士の衝突の力の方が強くなると、結合が外れてバラバラになります。これが液体から気体になるということです。皆さんご存知の、蒸発という現象です。では分子同士の衝突とは何かというと、物質の振動、つまり熱です。熱とは外的にエネルギーが加わって物質が振動していることなのです。ですから沸騰した水を見て、「あっ、水分子が振動して分子の結合が外れて気体になったね。」という見方ができるのです。新しい知識を得ることで、普段見ていたものの見え方が以前と変わるのって、とっても面白いことですよね。分子同士の結合の強さ=沸騰のしにくさですので、-196℃で沸騰してしまう窒素はとても結合が弱く、少しの振動で結合が外れてしまうといえますし、逆に、2520℃で沸騰するアルミニウムは水よりもはるかに結合が強いといえるのです。よく物事に動じない人を、鉄のような精神力だ、などと形容しますが、言い換えれば、あの人は分子の結合が強くて沸点の高い人だ、と言っているようなものですね。

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次いでリチャーズ先生は、冷蔵庫の秘密も種明かししてくれます。簡単に言うと、冷蔵庫は物質が液体から気体に蒸発するときに周りの熱を奪う、気化熱という現象で冷やしています。そのあと蒸発してしまった物質がそのままでは、冷蔵庫の冷却物質(アンモニアなど)が減っていって、ついにはなくなってしまいますよね?ですから気化した液体にコンプレッサーで圧力をかけて、再び液体に戻し、それを再び気化させて冷やす、というのを繰り返しているのです。もうおわかりでしょうが、冷やすという行為そのものには電気は使われていません。圧縮して、液体に戻すときに電気を使うのです。すなわち、電気の量やモーターのパワーは冷蔵庫の冷やす能力には関係なく、どのくらい低い温度まで冷やせるかは、どのような種類の物質を使うか、なるべく低い温度まで冷やしたいのなら、より分子同士の結合の脆弱な物質を使うかにかかっているということです。(その後、圧縮にパワーが必要なので、結局電気を使いますが、それは冷やすためではなく、維持するためだということです。)多くの方が、電気が強ければより冷たく冷やせるとお考えでしょうから、これを知っているだけであなたは科学的なものの見方がかなりできる人になっているといってもいいのではないでしょうか。

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分子や原子は最小の単位ですから、絶対不変のものであるかのように思われがちですが、それはあくまで今の安定した宇宙での話です。絶対不変のものはなく、あくまで前提条件の上ではかなく成り立っていると知ることは、謙虚な心と、考えの多様性を育むきっかけになるでしょう。では原子が不変ではないとはどういうことかといいますと、原子核の周りに電子が回り、小さな太陽と惑星のようにして原子が成り立っていますが、最初から高だったわけではなく、宇宙が出来たビッグバンの直後は熱によって大混乱のように粒子同士が動き回っていたため、原子核と電子がひきつけあう力を上回り、なかなか原子はできませんでした。20万年~30万年後に宇宙が冷えて原子核と電子の引力が上回り、原子となったのです。生き物の体、地球・・そういった万物の構成物の基礎ともいえる原子も、宇宙の歴史にともなってだんだんと出来てきたものという事実は、とてもスケールが壮大でロマンを感じます。

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原子の動きというのは、まるで他愛のない子供が自然にやりたいようにやり、行きたいように行くという様子に似ていて、とても可愛いものです。たとえばメタン。メタンの化学式はCH4、Cつまり炭素原子がひとつに、Hつまり水素原子が4つです。HはH2として二つ繋がって安定するように、原子核のまわりに電子がひとつしか周っていないのでバランスが悪く、ほかの原子核と結合して電子を二つ回すことで安定します。炭素Cの電子は、最外周に4つの電子が周っているために、その電子ひとつひとつに水素原子が結合して、安定しているわけですね。このように一見甘えん坊で、なるがままに任せているように見える原子たちの動きはかわいらしいものです。Cの電子にHの電子がくっついてメタンになる一方、Cの電子に他のCの電子がくっつき、その結合が縦横にびっしり張り巡らされているのが、ご存知ダイヤモンドです。ダイヤモンドの硬さの秘密は、このように縦横にびっしりと結合して丈夫な建物に張り巡らされた柱のようになっているという物理的な強さに他ならず、同じくCだけで出来ている石炭は結合の形がダイヤモンドに比べてスカスカなので、もろいのです。例えるなら、糸を縦横に編み込めば丈夫な布になりますが、糸を横に並べてノリでくっつけただけではかんたんにバラバラになってしまうようなものでしょうか。

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水が常温で液体なのには、秘密があります。水の化学式はH2O、ふつうこのような簡単な構造の分子は、常温では気体なのです。しかし、水が常温で気体だったら、人間はもちろん多くの生き物は生きられないでしょう。ではなぜ水は常温でも分子同士が強い力で結合したままで、保っていられるのか。その理由は水素結合という現象にあります。酸素が水素の電子を強力にひきつけるため、酸素原子が-の電荷を帯び、水素原子が+の電荷を一時的に帯びます。そのため数多くの水分子同士があっちの水素とこっちの酸素、こっちの酸素とあっちの水素と結合、分離を繰り返すような、流動的な状態が生まれ、これがあちこちで連続しているために、水が液体としてつながっているのです。私はこの話を聞いて、まるで人間社会のようだと思いましたね。お金の借り入れをして、他のところから稼ぎ、そして他の人がまた借り入れをして・・と、不安定な金銭のやりとりをし続けることで、結局は人と人とが繋がっている。それは相互に自立して安定しているよりも、集団としては強いのです。私も、人との縁を大事にしていきたいですね。

このように、化学の基礎的な知識を教わりながら、日常社会に関連したエピソードも楽しく紹介してくれるのが、今回の本、「化学のすすめ」です。今回いくつかご紹介したエピソードのほかにも、まだまだ楽しいお話が満載ですので、お読みになって損はない、内容の濃い本としてオススメですよ。
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